2. 間伐材チップの生産と取引実態 〜チップ工場の事例調査から〜

 

2. 1 佐藤木材工業(株)〈北海道〉

佐藤木材工業(株)は、北海道紋別市に所在し、木材チップ製造・販売の他、割り箸の製造・販売、製材品の製造・販売、素材生産、山林管理・育成などの事業を行っている。佐藤木材工業(株)の木材チップ工場では、チッパー2台、バーカー1台を使用して、製紙用の木材チップを生産している。木材チップの原料は原木および製材工場で発生する背板であり、使用しているチッパーは原木用1台、背板用1台である。原木用チッパーはいすゞ製ディーゼルエンジン(350ps)を使用したタイプであり、最大投入径は720 mmである。電気の基本料金を考慮すると稼働時のみ燃料を使用するエンジンタイプの方が効率的だということであるが、軽油代上昇の影響は大きいそうである。背板用チッパーは電気モーターを使用するタイプである。従業員数はチップ工場専任が2名(チップ生産1名、土場1名)となっている。平成21年の生産実績は、原木チップで、エゾマツ・トドマツ500絶乾重量トン、カラマツ725絶乾重量トン、広葉樹2,714絶乾重量トンの合計3,939絶乾重量トン、背板チップでエゾマツ・トドマツ4,282絶乾重量トン、カラマツ1,104絶乾重量トンの合計5,386絶乾重量トンである。木材チップの生産能力は原木用のエンジンタイプチッパーで年間24,000絶乾重量トン、背板用チッパーで年間9600絶乾重量トンであり、したがって生産能力に対する生産実績の割合はそれぞれ16%、56%である。

2.1.1は、平成21年度における佐藤木材工業(株)木材チップ工場の原木購入量と購入単価を示している。佐藤木材工業(株)木材チップ工場では、針葉樹、広葉樹ともに立木買い、素材買いの両方で木材チップ用原木を購入しており、原木取引の単位は層積(層m3)で行っている。冬の取引で雪の重さを考慮することが困難であるので、重量取引ではなく層積取引を行っているとのことである。層m3からm3への換算係数は、トドマツ0.40.5、カラマツ0.380.5、雑木・広葉樹0.30.4である。トドマツは樹幹が通直であるため比較的係数が高い。曲がり材、小径材が多いときは係数を調整する。平成21年度における佐藤木材工業(株)木材チップ工場の原木購入量は10,754m3で、針葉樹が立木買い1,746m3、素材買い3,198m3の計4,944m3(全原木購入量の46%)であり、広葉樹が立木買い897m3、素材買い4,913m3の計5,810m3(全原木購入量の54%)である。平成21年度における佐藤木材工業(株)木材チップ工場の原木の購入平均単価は、49月期では立木買いの針葉樹が3,816円/m3、立木買いの広葉樹が8,226円/m3、素材買いの針葉樹が3,352円/m3、素材買いの広葉樹が7,833円/m3であり、103月期では立木買いの針葉樹が3,644円/m3、立木買いの広葉樹が8,234円/m3、素材買いの針葉樹が3,320円/m3、素材買いの広葉樹が7,725円/m3である。49月期と103月期を比較すると、立木買いの針葉樹が172円/m3、素材買いの針葉樹が32円/m3、素材買いの広葉樹が108円/m3の購入単価の下落が見られ、立木買いの広葉樹が8円/m3の購入単価の上昇が見られる。

 

佐藤木材工業(株)木材チップ工場では、立木を森林管理局・森林管理署および県・市町村から購入しており、その数量割合は森林管理局・森林管理署が67%、県・市町村が33%となっている。素材の直接の購入先は、森林管理局・森林管理署(23%)、素材業者(60%)、素材生産者協同組合(8%)であり、県・市町村、原木市場、森林組合、林家からは購入していない。原木は主として国有林および道有林である。受け入れ径は650cm、材長は2.22.4mである。合板用に造材した1.9mの原木も受け入れ、径が20cm以上で単板を剥くことのできる原木は合板用として販売し、そうでない原木はチップ原料にしている。背板チップは自社の製材工場で発生する背板を原料としている。

佐藤木材工業(株)木材チップ工場の木材チップ原料の買い受け(検量)単位は、立木、素材のどちらも商慣行によっている。すなわち、検量を重量で行い、樹種ごとの換算係数をかけて材積に換算しているとのことである。
 佐藤木材工業(株)木材チップ工場で生産された製紙用木材チップは、集荷業者へ100%販売されるが、直接製紙工場へ納入される。取引集荷業者は王子木材緑化(株)のみで、納入製紙工場は王子製紙(株)苫小牧工場、王子特殊紙(株)江別工場、王子板紙(株)名寄工場である。単価の仕切り場所は、王子製紙(株)、王子特殊紙(株)では自社サイロ下渡しであり、王子板紙(株)では納入先工場渡しである。単価契約方法は四半期毎となっている。

 佐藤木材工業(株)木材チップ工場は、取引集荷業者である王子木材緑化(株)より製紙用木材チップの品質基準を提示されている。その品質基準を表2.1.2に示す。目標とするチップサイズ範囲を長さ1727mmと定め、その範囲のチップが70%以上になるようにしている。樹皮、スリーバ、腐れ、ダストの許容混入率はそれぞれ0.4%、2.0%、0.5%、1.0%であり、許容混入率を超えた場合は超えた重量を歩引き(納入重量からその分を差し引き)される。異物(金属、プラスチック、ビニール、砂礫、陶器類、油脂・塗料、接着剤付着など)の混入は認められず、混入があった場合は厳重注意・指導を受けることになっている。

 

 

 

 佐藤木材工業(株)と取引集荷業者である王子木材緑化(株)との間には、製紙用木材チップの契約数量と納入数量についての規定は特にない。製紙用木材チップの検量方法は、すべて王子木材緑化(株)の方法に従っており、内容は熟知していないとのことである。

2.1.3は、佐藤木材工業(株)木材チップ工場の製紙用木材チップの販売単価を示している。王子板紙(株)名寄工場に納入するチップは納入工場渡しで、平成21年度49月期では広葉樹の白チップが23.7円/絶乾kg、広葉樹の黒チップが21.9円/絶乾kgであり、103月期では広葉樹の白チップが22.7円/絶乾kg、広葉樹の黒チップが20.9円/絶乾kgとのことである。49月期と103月期を比較すると、白チップ、黒チップともに2.0円/絶乾kg下落している。

自社サイロ下渡しのチップの納入先は王子製紙(株)苫小牧工場または王子特殊紙(株)江別工場で、原木チップの場合、平成21年度49月期ではエゾマツ・トドマツが15.9円/絶乾kg、カラマツが12.0円/絶乾kg、広葉樹が22.4円/絶乾kgであり、103月期ではエゾマツ・トドマツ15.4円/絶乾kg、カラマツが11.5円/絶乾kg、広葉樹は1012月期では21.9円/絶乾kg13月期では21.3円/絶乾kgとのことである。49月期と103月期を比較すると、エゾマツ・トドマツ、カラマツは0.5円/絶乾kg下落、広葉樹は1012月期に0.5円/絶乾kg13月期に0.6円/絶乾kg下落している。背板チップの場合、平成21年度49月期ではエゾマツ・トドマツが12.7円/絶乾kg、カラマツが9.4円/絶乾kgであり、103月期ではエゾマツ・トドマツ12.2円/絶乾kg、カラマツが8.9円/絶乾kgとのことである。49月期と103月期を比較すると、エゾマツ・トドマツ、カラマツともに0.5円/絶乾kg下落している。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

写真2.1.1 針葉樹原木                         写真2.1.2 ドラムバーカー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真2.1.3 ディスクチッパー                     写真2.1.4 チップ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真2.1.5 バークヤード

 

 

2.2 葛巻林業(株) <岩手県>

 葛巻林業(株)は、岩手県盛岡市に所在し、木材チップの製造・販売を行っている。葛巻林業のチップ工場(岩手郡葛巻町)では、チッパー(定格出力150kW1台、バーカー1台を使用して、製紙用の木材チップを生産している。従業員数は専任の従業員が7人である。木材チップの生産能力は年間12,000絶乾重量トンであり、平成21年度の生産実績はスギ260絶乾重量トン、アカマツ1,784絶乾重量トン、広葉樹(主にナラ)2,463絶乾重量トンで、合計4,507絶乾重量トンである。したがって、生産能力に対する生産実績の割合は38%である。木材チップ用の原料は100%原木であり、廃材などを原料とする木材チップの生産は行っていない。

 表2.2.1は、平成平成21年度における葛巻林業(株)木材チップ工場の原木購入量と購入単価を示している。葛巻林業(株)木材チップ工場では、針葉樹、広葉樹とも素材買いにより木材チップ用原木を購入しており、原木取引の単位は材積(m3)で行っている。平成21年度における葛巻林業(株)木材チップ工場の原木購入量は針葉樹は素材買い3,714m3、広葉樹は素材買い7,122m3である。平成21年度における葛巻林業(株)木材チップ工場原木の購入平均単価は、49月期には針葉樹が7,200円/m3、広葉樹が10,100円/m3103月期には針葉樹が6,900円/m3、広葉樹が9,650円/m3であった。

 葛巻林業(株)木材チップ工場では、素材を素材業者および森林組合から購入しており、その数量割合は素材業者87.4%、森林組合12.6%である。森林管理局、森林管理署等、県・市町村、素材生産者組合原木市場、林家等からは購入していない。

 

 

 葛巻林業(株)木材チップ工場の木材チップ原料の買い受け(検量)単位は、商慣行によっている。すなわち、トラックスケールで重量を測定し、係数によりm3に換算している。広葉樹の係数は0.67 m3/トン、針葉樹の場合は0.68 m3/トンである。ただし、納入工場によって異なり、0.70.72の場合もある。

 葛巻林業(株)木材チップ工場で生産された製紙用木材チップは、集荷業者へ販売されているが、すべて製紙業者へ納入される。取引業者は北菱林産(株)、八戸林産(株)の2社であり、納入先はそれぞれ北上ハイテクペーパー(株)北上工場、三菱製紙(株)八戸工場である。単価の契約方法はどちらも月毎である。

 葛巻林業(株)木材チップ工場は、納入先である北上ハイテクペーパー(株)、三菱製紙(株)八戸工場より製紙用木材チップの品質基準を提示されており、その品質基準は表2.2.2に示す。木材チップのサイズは長さ18mm、幅20mm、厚さ3.5mmを標準サイズとし、38mmの篩を通過した木材チップで、厚さが2.05.0mmのものが70%以上であることとなっている。樹皮および異物の混入は不可であり、欠点については腐れが不可となっている。これらの基準に満たないものが納入された場合には、納入重量からその分を差し引かれ、厳重に注意および指導を受けるとのことである。

 

 

 葛巻林業(株)木材チップ工場と納入先である北上ハイテクペーパー(株)、三菱製紙(株)八戸工場との間には、製紙用チップの契約量と納入数量についての規定があるが、契約量に満たない場合、契約量を全うした場合、契約量を超えた場合のすべての場合について、特段の措置はないとのことである。また、取引先の製紙用チップの検量方法については取引先の方法に従っており、内容は熟知していないとのことである。取引先の納入単価の決め方についても同様に取引先の方法にしたがっており、内容については熟知していないとのことである。

 表2.2.3は、平成21年度における葛巻林業(株)木材チップ工場の製紙用チップの販売単価を示している。スギについては、平成21年度1012月期の単価が16.2円/絶乾kg、アカマツは49月期で17.2円/絶乾kg1012月期では16.7円/絶乾kg13月期では15.9円/絶乾kgである。また、広葉樹は、46月期では19.7円/絶乾kg79月期で19.4円/絶乾kg103月期では18.2円/絶乾kgであった。49月期と103月期とを比較すると、わずかながら単価の下降が認められた。

 

 

 また、葛巻林業(株)木材チップ工場は、広葉樹バークを粉砕して牛糞処理用に販売している。牧場において、夏の間は牛が放牧されるが冬には牛舎に入るため冬場の需要が多いとのことである。

 

 


 

写真2.2.1 土場に保管された針葉樹原木

 

 

 

写真2.2.2 チップ用カラマツ原木

写真2.2.3 バーカーへの原木の投入

 

 

 

写真2.2.4 バーカー

 

写真2.2.5 チッパー

写真2.2.6 チップヤード

 

 

2.3 丸和林業株式会社 <高知県>

 丸和林業グループは全国に事業所を持ち、木材チップの製造販売を主体に、山林伐出・造林、木材販売、緑化事業、木質系廃棄物処理、地域の宿泊施設の経営等の幅広い事業を行っている。母体である丸和林業株式会社高知事業所では、チッパー(定格出力170kW1台、バーカー1台を使用して、製紙用の木材チップを生産している。また、自走式粉砕機(コマツ製、処理能力:40m3/h)により伐根、建築廃材等の木質系産業廃棄物の中間処理も行っている。従業員数は専任の従業員が3人である。平成21年度の製紙用木材チップ生産実績は、針葉樹チップはスギ・ヒノキ合わせて41,860絶乾重量トン、広葉樹チップは1,760絶乾重量トンで、合計43,620絶乾重量トンである。

 表2.3.1は、平成21年度における丸和林業株式会社高知事業所の原木購入量と購入単価を示している。丸和林業株式会社高知事業所では、針葉樹、広葉樹とも100%素材買いにより木材チップ用原木を購入しており、原木取引の単位は、原木市場とは材積(m3)、素材生産業者とは生重量トン(生t)で行っている。ただし、市場買いの場合も運賃は重量単位である(10001500円/t)。重量から材積に換算する係数は、針葉樹・広葉樹とも0.7としている(以前は広葉樹は0.68としていたが、現在は丸和林業グループ内で統一した)。平成21年度における原木購入量は、針葉樹は41,350生トン、広葉樹は4,940生トンである。平成21年度の原木の購入平均単価は、49月期には針葉樹が4,380円/生トン、広葉樹が5,640円/生トン、103月期には針葉樹が3,760円/生トン、広葉樹が4,900円/生トンであった。素材は森林管理局署、原木市場および森林組合等から購入しており、その数量割合は素生協40%、森林局署20%、原木市場15%、林家等15%、森林組合10%である。システム販売での直接納入もあり、最も遠方の買い入れ先は愛媛県の久万森林組合である。

 

 丸和林業株式会社高知事業所で生産された製紙用木材チップは、製紙工場へ直接販売されている。納入先は王子製紙(株)富岡工場、丸住製紙(株)大江工場、大王製紙(株)三島工場である。また、木質ボード原料として日本製紙木材小松島工場等へも納入している。単価の仕切場所はいずれも納入先工場渡しである。

 丸和林業株式会社高知事業所は、納入先である製紙工場より木材チップの品質基準を提示されている。その品質基準を表2.3.2に示す。木材チップのサイズは長さ2025mm、幅50mm以下、厚さ2.85.0mmを許容範囲とし、範囲内のものが98%以上であることとなっている。樹皮の混入率は3%以内、スリーバの混入率は2%以内とし、それ以上の場合は納入数量からその分差し引かれる(歩引き)。節、腐れ等の欠点、ダストについても重量%分が歩引きされる。異物の混入は不可であり、混入していた場合にはペナルティーがある。

 

 丸和林業株式会社高知事業所と納入先である製紙工場との間には、製紙用木材チップの契約量と納入数量についての規定があるが、契約量に満たない場合、契約量を全うした場合、契約量を超えた場合のすべての場合について、特段の措置はないとのことである。また、取引先の製紙用チップの検量方法、納入単価の決め方については取引先との協議で決定しており、内容も熟知しているとのことである。

 表2.3.3は、平成21年度における丸和林業株式会社高知事業所の製紙用木材チップの販売単価を示している。平成21年度の単価は、針葉樹白チップは17.0円/絶乾kg、広葉樹白チップは17.2円/絶乾kgであった。また、針葉樹黒チップの単価は10.5円/絶乾kgであった。四国では、針葉樹と広葉樹の単価にあまり差がないのが特徴である。以前は、針葉樹チップの方が単価が高い時期もあったとのことである。針葉樹の樹種はスギ・ヒノキ込みでスギが70%くらいであるが、マツ・モミ・トガも少量混ざることがある。また、樹種別では、以前はマツチップの単価が高かったが、マツクイの被害等で四国におけるマツの出材は減少しているとのことである。他地域ではチップ単価がもっと高いところもあるようだが、単価を上げる場合には数量的な要求も高まるため、現状では対応が難しい。

 

 

 愛媛県における間伐補助金の効果で、針葉樹のチップ用原木はほとんどがスギ間伐材である。現在は特別に間伐材チップと銘打って出荷してはいないが、昨年、丸住製紙向けに間伐材チップと証明して30トンほど納入した。

 原木の受入については、材長は2mが標準であるが、山での作業効率等を考慮してそれ以外の材長のものも受け入れている(60cm以上)。ただし、材長2m以下の材はバーカーの処理能率に影響が出るため、単価を下げている。末口径は8cm以上とし、径65cm以上のものはチッパー投入前に土場で割っている。

木質系産業廃棄物の中間処理として受け入れた伐根や建築廃材等は、バークと混合し、土場で自走式粉砕機により粉砕している。粉砕したチップは、燃料用チップとして大王製紙やセメント会社へ販売している。チップの製紙用以外の用途を開拓中であり、園芸や温泉施設用の燃料チップとしても検討している。


 


写真2.3.1 広葉樹原木

写真2.3.2 針葉樹原木

 

 

 

 

 

写真2.3.3 スギ間伐材

写真2.3.4 バーカーへの原木投入

 

 

 

 

写真2.3.5 バーカー

写真2.3.6 チッパー

 

 



写真2.3.7 スクリーンとコンベア

写真2.3.8 チップ土場

 

 

 

 

 

写真2.3.9 針葉樹チッ

写真2.3.10 広葉樹チップ

 

 

 

 

写真2.3.11 燃料用チップ原料

写真2.3.12 自走式粉砕機

 

 

 

 

 

2.4 北菱林産(株)〈岩手県〉

 製紙工場B工場(製紙工場調査の事例2)に木材チップを納入しているグループ会社である北菱林産(株)の本社工場は岩手県北上市に所在し、木材チップの製造・販売を行っている。田沢湖、岩泉、久慈を合わせて4つの工場で木材チップを生産しており、本社工場および岩泉工場の生産能力はそれぞれ4000トン/月である。本社(北上)工場のチップヤードは4000トンである。本社工場には、チッパーが1台、バーカーが1台あり、これらによって製紙用チップを製造・販売している。バーカーのバーキングプレートは9mのものが3本である。バークはボイラー燃料として使用している。なお、田沢湖(秋田)工場では、秋田産の材を原料としてチップを生産している。なお、本工場では質問票による事前調査を行っておらず、他の事例工場と比べて簡易な聞き取り調査のみを行った。

 異物の除去は、チップコンベア上で磁石により鉄類を除去し、Vスクリーンでチップを水に通して、石などの異物を沈殿させる重量選別法によって除去している。また、プラスチック類は浮上によって分離するが、選別が難しく、混入には十分な注意を払っている。

 原木は伐採業者が手当てしたものを丸太で購入する場合がほとんどである。そのほか、立木を購入して素材業者に伐採、搬出を依頼する場合もあるが、そういったケースは少ないとのことである。

 原木の取り引き単位はm3であり、重量に係数をかけて体積に換算する。標準的な係数は広葉樹で0.68、針葉樹で0.67だが、資源背景やこれまでの取り引き状況が工場によって異なるため、実際に用いる係数は場合によって異なっている。

 立木の材積は、

  面積×植栽密度

によって算出される。立木の購入単価の決定に際しては伐出コストなどを勘案するが、受け入れ価格(工場着値)から逆算するしかないため、工場から遠いほど価格に占める運賃の比率が大きくなり、伐出業者さんから見れば単価が安くなる。立木を購入した場合は、用材向きの原木は選別して競売に出すこともある。

 現在取り引きのある素材生産業者の数は、各工場でそれぞれ約30あり、森林組合との取り引きもある。森林組合が扱う原木はほとんどが針葉樹だが、広葉樹も取り扱っているため、広葉樹が伐採されると受け入れる。

 広葉樹チップ用原木単価は、1万円/m3前後であり、岩手県は全国平均より高い。


 

写真2.4.1 チップ用原木

 

 

 

写真2.4.2 バーカーへの投入

写真2.4.3 チッパーへの投入

 

 

 

写真2.4.4 コンベアを流れるチップ

写真2.4.5 チップ

写真2.4.6 チップヤード

 

 

2.5 調査4工場のまとめ

 間伐材チップの生産と取引実態について、全国3地域の4木材チップ工場、すなわち、佐藤木材工業(株)木材チップ工場(北海道)、葛巻林業(株)本社工場(岩手県)、北菱林産(株)本社工場(岩手県)、丸和林業(株)高知事業所(高知県)において調査を行った。なお、北菱林産(株)本社工場では、簡単な聞き取り調査のみを行った。

 チッパー2台とバーカー1台を有する木材工業(株)を除き、各工場ともチッパー1台、バーカー1台で木材チップを生産している。チッパーの定格出力は、150262kWとなっている。木材工業(株)の2台のチッパーのうちの1台であるディーゼルエンジン駆動のチッパーが他工場のものと比較して出力が大きい。木材チップ製造従事している従業数は、木材工業(株)が専任2名、葛巻林業(株)が専任7名、丸和林業(株)所が専任3名となっており、葛巻林業(株)の従業数が多い。これは、おそらく、工場全体従業数でペレット製造ラインも含めた人数であろう。原木からのみ木材チップを生産しているのは葛巻林業(株)と北菱林産(株)本社工場であり、木材工業(株)は原木および背板から木材チップを生産しており、丸和林業(株)所は原木からの木材チップの生産だけでなく木質産業廃棄から自走粉砕による木材チップ(ピンチップ)の生産も行っている。平成21年度の木材チップ生産実績は、木材工業(株)が9,325絶乾重量トン(生産能力の28%)、葛巻林業(株)本社工場が4,507絶乾重量トン(生産能力の38%)、丸和林業(株)高知事業所が43,620絶乾重量トンとのことである。

 表2.5.1は、平成21年度における調査対象木材チップ工場(北菱林産(株)本社工場は除く)の原木購入量と購入単価を示している。立木買いと素材買い両方を行っているのは佐藤木材工業(株)木材チップ工場のみで、葛巻林業(株)本社工場および丸和林業(株)高知事業所は素材買いのみである。取引単位は三者三様で、佐藤木材工業(株)木材チップ工場が層m3、葛巻林業(株)本社工場がm3、丸和林業(株)高知事業所が生重量トン(素材生産業者から購入の場合)である。これらの取引単位は、各地域や各会社の商慣習により決定されたものであろうが、全国で統一されるべきであろう。佐藤木材工業(株)木材チップ工場のm3からm3への換算係数は、トドマツ0.40.5 m3/m3、カラマツ0.380.5 m3/m3、雑木・広葉樹0.30.4 m3/m3であり、径級などにより調整している。また、丸和林業(株)事業所の重量から材積への換算係数は0.7 m3 /生重量トンである。なお、北菱林産(株)本社工場の取引単位はm3、重量から材積への変換係数は針葉樹0.68 m3 /生重量トン、広葉樹0.67 m3 /生重量トンである。

 立木買いの平均単価は、佐藤木材工業(株)木材チップ工場では、針葉樹が3,730/m3、広葉樹が8,230/m3とのことである。素材買いの針葉樹の平均単価は、佐藤木材工業(株)木材チップ工場3,336/m37,413/m3)、葛巻林業(株)本社工場が7,050/m3、丸和林業(株)事業所が4,070/生重量トン(5,814/m3)である。丸和林業(株)事業所が他2工場と比較して低くなっている。素材買いの広葉樹の

 

平均単価は、佐藤木材工業(株)木材チップ工場7,779/m322,226/m3)、葛巻林業(株)本社工場が8,525/m3、丸和林業(株)高知事業所が5,270/生重量トン(7,529/m3)である。広葉樹も丸和林業(株)事業所が他2工場と比較して低くなっている。しかし、佐藤木材工業(株)木材チップ工場の7,779/m322,226/m3)では採算がとれないと思われる。なお、平成21年度の49月期と103月期の素材買い原木の価格を比較すると、3工場とも針葉樹、広葉樹を問わずわずかであるが低下している。

 素材の購入先割合は、佐藤木材工業(株)木材チップ工場が森林管理局・森林管理署23%、素材生産業者60%、素材生産業協同組合8%であり、葛巻林業(株)本社工場が素材生産業者87%、森林組合13%であり、丸和林業(株)事業所が森林管理局・森林管理署20%、素材生産業協同組合40%、原木市場15%、森林組合10%、林家等15%である。佐藤木材工業(株)木材チップ工場および葛巻林業(株)本社工場では原木の直接購入先が素材生産業者を主体としているのに対し、丸和林業(株)事業所では素材生産業協同組合を主体としている。また、丸和林業(株)事業所は種々の購入先から直接原木を調達している。

 木材チップ原料(素材)の買い付け単位は、佐藤木材工業(株)木材チップ工場、葛巻林業(株)本社工場、丸和林業(株)事業所の3工場とも商慣行により取り決められたものである。

 佐藤木材工業(株)木材チップ工場および葛巻林業(株)本社工場で生産された製紙用木材チップは、100%製紙会社の取引集荷業者に販売されているが、直接製紙工場に納入される。つまり、物流と商流が異なっている。一方、丸和林業(株)事業所および北菱林産(株)本社工場で生産された製紙用木材チップは直接製紙会社に販売されるとのことである。単価の仕切り場所は、丸和林業(株)事業所が製紙工場で、佐藤木材工業(株)木材チップ工場が自社サイロ下か製材工場となっている。佐藤木材工業(株)木材チップ工場の場合、同一取引集荷業者に販売しているにもかかわらず、製紙工場により単価の仕切り場所が異なっている。過去の経緯からこのようになっているのであろうが、単価の仕切り場所は統一されるべきであろう。なお、納入先製紙工場渡しの場合、単価は運賃を考慮して決定されているが、必ずしも木材チップの単価と運賃の単価が示されているとは限らない。このため、木材チップ工場が木材チップのみの単価を正確に把握していることが少ない。木材チップの単価決定の透明性を高めるためには、納入先製紙工場渡しの場合でも、木材チップの単価と運賃の単価を示していくことが重要であると考えられる。

 佐藤木材工業(株)木材チップ工場、葛巻林業(株)本社工場、丸和林業(株)事業所の3工場とも木材チップの品質基準について製紙工場より提示されており、それをまとめたのが表2.5.2である。サイズは、若干異なるもののどの工場でも同じような範囲と平均となっている。樹皮、スリーバ、欠点(腐れ)、ダストについてはある許容範囲を認める工場とすべて歩引きする工場とがある。異物については、どの工場でも不可で、混入した場合、佐藤木材工業(株)木材チップ工場および葛巻林業(株)本社工場は厳重注意・指導を受け、丸和林業(株)高知事業所はペナルティを受ける。

 

 調査対象工場と取引集荷業者もしくは納入先製紙工場との間に製紙用木材チップの契約数量と納入数量についての規定は、佐藤木材工業(株)木材チップ工場では特になく、葛巻林業(株)本社工場および丸和林業(株)事業所では規定があるものの、契約量に満たない場合、契約量を全うした場合、契約量を超えた場合のすべての場合について、特段の措置はないとのことである。また、製紙用木材チップの検量方法および単価の決定方法は、佐藤木材工業(株)木材チップ工場および葛巻林業(株)本社工場が取引先の方法に従っているが、その内容は熟知していないとのことである。一方、丸和林業(株)高知事業所では、製紙用木材チップの検量方法および単価の決定方法とも取引先と協議して決定しており、その内容も熟知しているとのことである。製紙用木材チップの検量方法および納入単価については、その透明性を高めるためにも、木材チップ工場と取引集荷業者や納入先製紙工場との協議により決定されることが重要であり、木材チップ工場においても製紙用木材チップの検量方法について熟視しておくこと(取引集荷業者や納入先製紙工場が十分に説明すること)が必要であると考えられる。

 表2.6.3は、調査対象木材チップ工場の製紙用木材チップの販売価格を示している。地域、樹種および納入先製紙工場との距離が異なるので単純に比較はできないが、平成2146月期と13月期を比較すると、横ばいであった丸和林業(株)事業所を除いて、製紙用木材チップの販売価格は針葉樹、広葉樹ともに13月期ほうが低くなっている。